戸塚パルソ通信@メール (第11号)
戸塚宿を行く
vol.005-01
恋愛パワースポット?”第六天”を巡る
○「もうすぐクリスマスですよね」
「なので、恋愛のパワースポットを取り上げたいと思うんです。例えば、出雲大社は縁結びの神様で有名じゃないですか。都内でも東京大神宮は恋愛成就の御利益で毎日大盛況だと言いますし、戸塚にもきっとそういうスポットがあるに違いないんです。そこに今からお参りすれば、今年のクリスマスは一人で過ごさなくて済みますよ、きっと!」
編集部員Xの妙なテンションに推されて決まった今回の企画。
「そもそも “クリスマスまでに恋愛を成就する為に神社にお参りする”というのは、カミサマ的にどうなのか?」という疑問もなくはなかったのですが、とりあえずそれは置いておいて、調査を開始しました。
※杉戸神社(横浜市西区)
まずは、毎年旧暦10月に、出雲に全国の神様が集まって、男女の縁を結ぶ会議を開くと言われるところから、縁結びの神様として信仰される出雲大社。
その分祠が関東にいくつかあることが判明しましたが、神奈川県の場合は秦野とのこと。他にも御縁のある神社ということで、杉戸神社や子の神社という名前が判明しましたが、いずれも戸塚近隣にはないそうです。
※東京大神宮(千代田区富士見)
近年、恋愛成就に御利益があるとして人気といえば、なんといっても東京大神宮。
庶民に対して初めて神前結婚式を行ったところから、縁結びの御利益があるといわれるようになったそうです。
東京大神宮は、伊勢の神宮の出張所から発祥したということなので、神奈川県に、伊勢神宮の出張所はなかったのだろうか?と探しましたが、該当なし。
他にも箱根神社や白山神社、貴船神社、三峰神社、氷川神社などが恋愛成就、縁結びの御利益があるといわれていることがわかりましたが、いずれも戸塚区周辺には見当たりません。
この企画、もはやこれまでかと思われたそのとき、編集部員Xが飛び込んできました。
「恋愛成就の神社を見つけました!この辺りにかなりあります!」
※第六天神社
「第六天神社や、第六社と呼ばれている神社です。御祭神が夫婦の神様なので、恋愛成就のお願いを聞いてくれるそうです!」
見ると、上矢部に2社、大坂台のところに1社。泉区ですが下飯田の駅からすぐのところにも1社。
「これ、すごいじゃないですか?戸塚は恋愛パワスポだったんですよ」
浮かれる編集部員Xを見ながら、「第六天」を検索してみました。 すると、、、
「他化自在天(第六天)は、欲界(地獄より天上まで)の最高位、また天上界の第六天、欲界の天主大魔王である第六天魔王波旬の住処。(wikipedeiaより抜粋)」
ま、魔王??編集部員Xが固まるのがわかりました。
恋愛成就の優しげな神様の筈が、なぜ魔王?その謎は次号で!
○恋愛成就の御利益があるという「第六天」。
しかし、ネットで調べてみたところ、「第六天とは魔王」という結果が出ました。
ややしばらく呆然としていた編集部員Xですが、
「実際に現地に行きましょう!ネットじゃ何もわからないですよ!」
と、飛び出して行きました。ネットメディアに関わるものとしては、大胆な発言だなあ。
戸塚の近隣だけで四社ある「第六天」。まずは上矢部の第六天社に飛んだのですが、しょっぱなからつまづきます。
地図上にある筈のお社が見当たらないのです。
ウロウロすること数十分。すると「何かお探しですか」と救いの声が。
近くで農作業をしていたと思しきご婦人でした。
「第六天というお宮を探しているんです」
ああ、あそこです、と指差された先は、どう見ても畑の真ん中。第六天について調べていることをご説明すると、ご婦人は
「主人の方がよく知っていますから」
と、ご主人を呼んで来てくださいました。
上矢部の第六天は、どなたかの持ち物ではなく、近隣の皆さんが、はるか鎌倉時代から支えて来たお宮だということです。
以前は畑の中に、第六天に通じる道もあったそうなのですが、畑を踏み荒らす不心得者が増えて来たため、不本意ながら、そちらは閉鎖。近隣の方は、一見、それとはわからない間道を通って、お参りしているということです。
「この辺りは昔は番匠谷といって、番匠=宮大工の居た土地なんだよ。鶴岡八幡宮の建築に関わって、功績のあった宮大工だそうだ。宮大工が拝んでいたのが第六天だということだ」
大工さんの守護神?随分おもむきが変わって来ました。
その時、わざわざ自宅にご案内していただき、見せていただいたのがこちら。「上矢部郷土史」と「戸塚神社志」
特に上矢部郷土史は、昭和3年に上矢部の歴史をまとめ、当時100軒だった地区の家々に配られたという大変貴重なものです。
「中身はちょっと見せられない」
ということ。当時は個人情報保護という概念のない時代。事細かく各戸の情報が載っているので、プライバシーが丸見えなのだとか。
なんとも時代を感じさせる話です。
恋愛成就については「第六天の総本社が、そういうことを言ってるかもしれないけれど、ここの第六天は、この集落がみんなで守ってきたお宮で、特にそれを意識したことはない」ということ。
ただ、逆に言えば、子孫繁栄がなければ、集落も途絶えてしまう訳で、広い意味では恋愛成就も、第六天の御利益といえるのでしょう。
さて、一般的に第六天とは、江戸時代までの神仏混交の中で、仏教の存在でありながら神社に祀られて来た神様でした。 ところが明治維新になり、「神社に仏教の神様を祀ってはいけない」という通達が出ます。 多くの場合、仏教と神道は対比出来る存在があったので、荼枳尼天なら稲荷神、弁財天なら宇賀神、大黒天なら大国主、と、入れ替えに困らなかったのですが、第六天である他化自在天には、残念ながら対応する神様がいませんでした。 このままでは神社として存続出来ない、という時に、どこかの知恵者が「第六天とは、神代七代の、第六代という意味にすればよい」と提案したのでしょう。 その六代に当たる面足尊 (おもだるのみこと) ・惶根尊 (かしこねのみこと)を祭神とすることで、明治の新しい時代に対応したのです。 この、新しい第六天の主が夫婦神であること、元々の他化自在天が「この世のあらゆることを思い通りにできる」とされていたことが重なり合って、「恋愛(縁結び)を自由自在にかなえる」という信仰になったのだと思われます。
公民館としても親しまれています。
道路改良工事でお宮が一新。
「養老伝説」が今も生きています。
「そこにお参りすればモテモテになれると言う訳じゃないんですね〜」と編集部員Xは少し、いや、かなりがっかりしています。 パワースポットというのは、自分のわがままをなんでも聞いてくれる都合のいい場所ではなくて、素晴らしい環境や、その場所を支えて来た先人たちの思いに感じて、自分を成長させるところなんだと思うのですが、どうでしょう。